支部長コラム其の1「これは画期的!ロスカット無しのリスク管理テクニック」

19eyecatch

国の投資家のみなさんこんにちは。全シ連東北支部長の坂本タクマでございます。普段は支部会員たちにハッパをかけたり、いろんなことを言っているのですが、どうにもまだまだ言い足りないことがある。会員だけでなく、広く一般の方たちにもわかっていただきたいことがある。そんな思いから、このコラムを立ち上げることになりました。
 
 主な内容は、今まで『全シ連』で扱ったテーマの中から、「これは」と思うものを選んで、より深く考えていく、というものになりましょう。情報共有の精神で、みんなで大きくなりましょう!!
 
17eye
 初回のテーマは、『ストップを使わない戦略の資金管理法』です。具体的には、検証結果の分布を見て、リスクを測る方法です。これは、
第17話
でやりました。システムトレードにはいろいろなメリットがありますが、これもまた、シストレの利点を目一杯活かしたやり方です。
 
 申し上げておきますが、これは、この私、坂本タクマが考えました。
世にも画期的なリスク管理手法であると自負しております。
にもかかわらず、発表当時から今までの世間の反応は冷淡なものでした。ここに再び取り上げ、有効性を顕示したいと存じます。
 
 『坂本メソッド』とでも名付けて冊子を作り、1万円で売ってもいいところを、無料で公開するのですから、多少なりとも褒め称えられてもいいのではないでしょうか。
 
 それでは本題に入りましょう。例えばこういうシステムがあったとします。
「ある条件を満たしたら寄付きで仕掛け、3日後の大引けで手仕舞う」
 手仕舞い条件は、「3日後」ということだけです。その間、どれだけ含み損が増えようとも、持ち続けるのです。
それでは耐えられない、と思って、他の手仕舞い条件も入れてみる。例えば何%逆に行ったら切る、みたいな。
ところが、どんな条件を入れようとも、パラメーターの数字をどういじろうとも、最初のシンプルな手仕舞いの成績を上回れない。それどころか、成績がた落ちでほぼ使い物にならない。そんなことってあるんじゃないでしょうか。
 
 「そんなら、元のままでいいじゃん」とおっしゃるかも知れませんが、それには大きな問題があります。「一体、何株仕掛けたらいいか」という判断がつきづらいということです。 トレード技術の中でも最重要と言えるのが、「1トレード当りの最大損失を総資産のごく一部に限定する」ということです。そのためには、仕掛ける段階で、いくらマイナスになったら損切るということを決めておかなければなりません。ここのところをいい加減にやっている人は、成功しているシステムトレーダーのなかにはほとんどいないと思います。
 
 そのための方法としては、いわゆるストップロスオーダーというものがあります。いくら逆行したら損切る、という注文を最初っから入れてしまうのです。しかし、先の戦略では、どんなストップも成績を損ねてしまいます。さて、どうしたものでしょうか。
 道は、3つほどあります。

1.成績(期待値)が悪くなったとしても、何とか使えるストップを探す。
2.ストップを使わず、別の方法で損失額をコントロールする。
3.その戦略の使用をあきらめる。

 儲かる戦略をすでにたくさん持ってらっしゃる方は、あきらめてもどうってことはないでしょう。しかし、坂本のように常に戦力不足に悩まされているトレーダーにとっては、捨てるにはあまりに惜しいこともあります。
以前の私は、無理にでもストップを入れていました。「平均利益はだいぶ下がるけど、資金管理のためにはしょうがないよね」と。後にも述べますが、それにはそれでメリットがあります。
 
 ところが、去年(2015年)のある日のこと。統計学の本を読んでいるときに、突然ひらめいたのです。
「そうだ、分布を見ればいいじゃん」
と。陳腐な表現ですが、これこそ神の啓示だったのではないでしょうか。
 
 我々には、バックテストのデータがあります。それを調べれば、どのくらいの割合でどの程度のヤラレが発生するのかが、実際にトレードする前に、大体、ある程度、なんとなくわかるのです。
 
 例えば、全取引を利益の大きい順に並べたときに、下から5%のところのヤラレがどのくらい、というのがわかります。1000回のトレードがあったとしたら、下から50番目のところがそれに当たります。これで、大体95%の取引はそれよりもよい結果になる、というラインがわかるわけです。これを利用すれば、まあまあの精度で1トレードの最大損失が見積もれるのです。
 
 ちょっとやってみましょう。図1は、坂本が検証したある戦略の結果のヒストグラムです。ストップは使わず、「仕掛けの3日後に手仕舞う」という手仕舞い条件だけを使っています。横軸に%損益、縦軸にその頻度を取っています。横軸は1%刻み、例えば目盛に「-4」とあるのは、「-5%より大きく-4%以下」(-5%

 
(図1) 
 
figure1_l
■基本統計
総取引数 5133回
勝率 61%
平均利益 1.56%
標準偏差 4.51%
PF 2.72
 興味があるのは左端のほうですから、そこを拡大します。
(図2)
 
figure2_l
 
 下から5%のラインは、損益でいったら-4.5%のところにあります。そこで、
「この戦略の1トレード当りの最大損失は、4.5%である」と、みなしてしまう
のです。これは、約5%の確率で、すなわち20回に1回くらいの頻度で外れますが、まあ、それは取引コストとして目をつぶります。
 それで、仕掛けの株数が計算できます。ある株を500円で買うとしましょう。もし、1トレード当りの許容損失を2万円と決めているのであれば、
20000 ÷ (500 × 0.045) = 888.88・・・
 となるので、800株買えることになります。これで、もし将来も過去データに近くなるとすれば、95%の確率で許容損失である2万円を超えることはない、と想定できるわけです。
 ここで、もう一度図2を見てください。-4%台のところには、まだけっこう回数がありますね。許容損失を-7%にまで広げれば、それ以上ヤラレる回数はがっくり減ります。割合にすれば1.3%ほどです。さらに、-9%まで広げれば「許容範囲外」の発生率は0、5%を切り、-13%まで拡大すれば、それを越えるヤラレは5133回中たったの4回(0.08%)になります。許容ヤラレを広げれば、それだけ安心感も大きくなります。
 ただし、許容ヤラレを広げると、それだけ仕掛け株数は減らさなければなりません。先ほどの2万円の許容リスクで500円の株を買う、という条件の場合、仕掛け株数は下の表のようになります。

許容損失 範囲外発生率 仕掛け株数
-4.5% 5% 800
-7% 1.3% 500
-9% 0.5% 400
-13% 0.08% 300

 ちなみに、検証上の最大ヤラレである-30%までをカバーすれば、仕掛けられるのは100株だけになります。さすがにこれはチキン過ぎるんじゃないかと思います。あくまで過去データでの話ですが、5000回中たった1回しか起きなかったことなので・・・
 どれを選ぶかは、そのトレーダー次第です。精神面も考慮しつつ、一番しっくりくるものを選ぶことになりましょう。分布を見ながら、どこに線を引こうか考えるのは、なかなか楽しいものです。
 このやり方でやや残念なのは、リスクを抑えめにしなければならないことです。許容損失をどこまで広げるかにもよりますが、範囲外のヤラレに備えて許容金額を控えめに設定したほうがいいでしょう。許容損失の何倍ものヤラレが立て続けに来ても耐えられるくらいには。
 その点、ストップを使えば、もっと浅めの損切ができますから、そのぶんポジションも大きくできます。これが、ストップを使うことのメリットです。ただし、ストップを使うほうがリスクコントロールが容易になるかというと、必ずしもそうではないと思います。特に、ザラ場中に逆指値で手仕舞うようなときには、スリッページが脅威になります。あらゆるストップを受け付けないタイプの戦略に無理矢理ストップを使って期待値を削り、さらにスリッページで削られたら、トータルマイナスになることも十分考えられます。
 この、分布を見るやり方では、許容範囲外とはいっても、その発生率があらかじめ予想できます。その点が、あらかじめ検証することが難しいスリッページとの違いです。少なくとも、
期待値を削ってまでザラ場で損切するよりは、分布を見て想定ヤラレを決めるほうが優れているんじゃないか
と、現時点で坂本は考えています。
 この例では、%損益で分布を見ましたが、ボラティリティーを考慮してATRを使うという手もあります。「20日間ATRの何倍の損益か」というような基準で分布を見るのです。また、単利や複利といった資金管理法と組み合わせることで、バリエーションが広がります。利益と安全度を天秤に掛けながら、いろいろ工夫ができるでしょう。
 なお、このやり方で本当に儲かるのか、ということがみなさん気になることでしょう。坂本自身が1年ほど前から3つのシステムでこの資金管理法を使っていますが、
現在のところ収支はすべてプラスです。
大きなトラブルはなく、安定した運用ができています。この程度ではまだまだ実績と呼べるようなものではありませんが、今後もトレードを積み重ね、皆様に誇れるような成果が出たならば、ご報告させていただきたく存じます。
 最後に、諸注意を。
・まずは、何はともあれ検証結果のヒストグラムを描いてみる。システムの特性を目で見るこによって、想定リスクをどれくらいにすればいいかが見えてくる。分布の形によっては、この方法は使えない、と判断すべきこともある。
・検証上の総トレード回数が非常に少ないときには、使わないほうがいい。例えば、100回もいかないような場合には「下から何%」とかいっても信頼できない。
・検証結果から算出した「範囲外」の割合が、絶対的なものだと思わない。実戦では検証より多めに範囲外が出ることもある。検証結果と実戦は、基本的には別物である。
・長期的な視野で考える。最初にまとめて範囲外が来たりすると痛いが、ストップを使わないことによって期待値は高めになっているはずなので、そのうちプラスになると信じて耐える。それに耐えられるほどの、小さめのリスクにしておく。
 いずれも、確率・統計の考え方が身についていれば理解できるはずのシストレの基本です。私としては、これは突飛な方法だとは少しも思っておらず、基本に忠実な、統計学に基づく方法だと思っています。
 「分布を見る」というやり方には、発想力次第で無数の応用が考えられるでしょう。それから、上に述べたことには、まだまだ論理的に未熟な点もあるでしょう。今後の発展は、皆様のお力添えにかかっています。