支部長コラム其の2「あなたは、自分が使っている戦略が『なぜ儲かるのか』という理由をどの程度わかっていますか?」

19eyecatch

国の投資家のみなさん、こんにちは。全シ連東北支部長の坂本タクマです。第2回のコラムのテーマは、「儲かる理由」についてです。全シ連第28話で扱いました。自分が使う戦略がどうして儲かるか、ということについて、どれだけわかっていなければならないか。これは非常に奥の深いテーマです。私とオオウチ副支部長の意見は真っ二つに分かれ、大戦争が始まってしまいました。

 あらためて坂本のスタンスを示しますと、「儲かる理由は、そんなに完璧にわかってなくてもいい」ということになります。しかし全シ連東北支部内では、「完璧にわかっていなければならない」というオオウチ派に押され気味でした。

 そこで、もっと広く、トレーダー一般ではどのくらい自分の戦略についてわかっているのか、ということを知りたくなりました。一般的に、完璧派が多いのかどうか・・・。そういう目的で、アンケートを採りました。たくさんのご回答ありがとうございました。以下に、結果をご報告いたします。


調査方法:全シ連のホームページ上での、ネットアンケート。
調査期間:2016年8月3日~8月25日
質問:「あなたは、自分が使っている戦略が『なぜ儲かるのか』という理由をどの程度わかっていますか?」
選択肢:「隅々まで完璧に」「まあまあ。そこそこ」「うっすらと」「全然」

結果
総回答数 124票

隅々まで完璧に。 11票 9%
まあまあ。そこそこ 43票 35%
うっすらと 41票 33%
全然 29票 23%

figure1


 お断りしておかねばならないのは、この結果で、数が多かったから偉いんだとか強いんだとか正しいんだとかいうことはない、といということです。相場では、少数派がしばしば勝利を収めるのはみなさんご存じのところでしょう。そもそも、このアンケート自体、選択肢は曖昧だし、そんなに正式なものではありません。

 ということを踏まえた上で申上げますが、意外と「全然」とお答えになった方が多かった、という印象です。「隅々まで完璧に」の倍以上です。儲かる理由がよくわからなくても、案外トレードできるのかも知れません。もちろん、実際に儲かるかどうかはまったく別の話ですが。

 アンケート結果からも見てとれるように、検証や実戦の結果がそうなった理由を推測するのは簡単なことではありません。統計から因果関係を述べるのは、とても間違いやすいことなのです。統計学をちょっとかじると、必ずこういう言葉に出くわします。「相関」と「因果」は別物である、と。2つの変数の間の相関係数が高いからといって、それらの間に因果関係があるとは限らないのです。

 教科書などによく載っている例では、「ある小学校で統計をとったところ、児童の身長と知っている漢字の数には強い正の相関があった」というようなものがあります。すなわち、「背の高い子ほど漢字を知っている」ということです。ここから直ちに、「彼女が漢字をよく知っているのは、背が高いからだ」とか「背を伸ばしたかったら漢字を勉強したほうがいい」ということが言えるでしょうか。もちろん、常識的に考えてそんなことがあるはずはありません。

 オチとしては、この結果は全学年を一緒くたにして集計したからこうなったまでで、学年別に集計すれば、ちゃんと無相関になる、ということです。「身長」と「漢字力」の背後に「学年」という変数が隠れていたわけです。本当の因果関係は「学年と身長」、「学年と漢字力」の間にそれぞれあったのです。「学年が上がると習った漢字が増える」というのが現象の真の姿です。「漢字を勉強すると背が伸びる」というのに比べれば、だいぶつまらない話ですが。
 
 
 このように、因果関係を言うときにはいろいろ気をつけなければならない、と教科書は締めくくるわけですが、トレーダーならば、ここからもう一歩踏みたいところです。例えばあなたが、小学校の校庭で遊んでいる子供達の中から、漢字をより多く知っている子を素早く見つけなければならない、というミッションを帯びていたらどうしましょう。児童に関する情報を何にも持っていなければ、とりあえず背の高い子を連れてくる、というのもひとつの手です。それでも、大きくは間違わないはずです。たとえ、学年という隠れた変数に気付いていなくても、身長と漢字力に相関があると知っていれば、一応、ミッション遂行はできるわけです。

 これをシステムトレードに置き換えると、こんな感じでしょうか。ある仕掛け方法を過去データで検証すると、期待値プラスと出た。なぜプラスなのかはよくわからないけれども、とにかく実際にやってみたところ、うまくいった。これこそが、多くのシステムトレーダーがやっていることでしょう。これでやれるならば、これでいいのです。

 だからといって、理由がまるっきりわからないままでいいかというと、そういうことでもありません。漢字力のある子を見つけるミッションでは、「学年」という要因が大きく効いていると気付いているのであれば、背の高い子を見つくろったあとに、「何年生?」と聞くことによって予測の精度を上げることが期待できるでしょう。

 システムトレードにも、似たようなことはあるでしょう。「大きく下げたあとは上がりやすい」という現象を発見したとします。「下げ」が「上げ」の原因であると考えるならば、より大きく下げたあとにはより大きく上げやすい、というような推測ができるわけです。テクニカルなトレードでは、様々なチャートパターンや指標を原因とし、その後の値動きを結果とみなしているとも言えるでしょう。

 ただし、トレードの世界にはもっと奥があります。大きく下げたあとに「なぜ」上げやすいのか、ということまで知りたいのであれば、値動きだけを研究しても答えは出ません。その裏にある投資家心理について、きちんと計画された調査を行うか、そういう調査をした論文を読むかしなければならないでしょう。理由を詳細に知ろう思えば、それなりに時間をかけて勉強する必要があります。

 何が言いたいかというと、儲かる理由を知るのは基本的に有利なことだけれども、それを追及するにはそれなりにコストがかかる、ということです。だったら、そのコストを別の儲かる戦略探しに回すというのも立派な生き方なんじゃないでしょうか。
 
 
 もうひとつ、儲かる理由がわからないと、ドローダウンが来たときにその戦略を使い続けることができなくなる、ということがよく言われます。それはそうなんですが、個人差が大きいんじゃないかと思います。知らない銘柄には絶対に手を出さない人もいれば、いわゆるアノマリーでガンガン取引する人もいる。それと同じように、機能する理由に納得のいかない点が少しでもあると実戦投入できない人もいれば、よくわからない戦略でも使いこなせる人もいるでしょう。自分がどっち側の人間なのか、十分見極める必要があります。

 どうも、人間というのは理由マニアのようでして、わからない、という状況に耐えられないことが多いようです。知らない人が突然家に入ってきたら、当然、「誰だ」とか「何しに来た」とかかたずねるでしょう。そこで「別に」とか答えられたら、メッチャ怖いですね。まだ「強盗だ」と言われたほうがマシかも知れません。相場が暴落したときには、不安から、どうして下げているか証券会社に電話で聞く人が大勢いるという話です。そういうときに電話対応する人は、絶対に「わからない」と言うな、と教育されているんじゃないかと想像します。

 そういうわけで、戦略の機能する原理を理解することは安心につながるでしょう。ただし、理由を知りたいあまり、性急な間違った理解に陥ってしまうと、何かあったときに、逆に大変なことになるんじゃないでしょうか。「間違ってるのはオレの理論ではなく、相場のほうだ!!」などという危険な考えにならないように、要注意です。表面的な数字から因果関係を突き止めるのは、案外難しいんだ、ということは心に刻んでおいたほうがいいでしょう。
 
 
 最後に、アンケートと共にみなさんからいただいたコメントをご紹介します。残念ながら、コメントを寄せてくださった方がそれぞれどの選択肢を選んだのかは、わからないのですが・・・。そこら辺は、なんとなく想像してください。


○山田さん
 初心者なので手持ちの戦略は少ないですが……。
 あと自分では「これこれこうだから儲かるだろう」と思い、実際に儲かったとしても、
 「本当にその理由で儲かったのかどうか」っていうと疑問なところはありますねー。
 偶然の可能性もありますし。
 次のコラムも楽しみにしてます。
 
takumasayそう、理解していると思い込むよりは、ちょっとあやふやだと思っているくらいのほうが、慎重になってかえって好結果を生むことはあるんじゃないでしょうか。
 


○sumさん
 トレンドへの順張りだが、波形を見て判断するからね~ 単純にMACDとかで判断できないからさ~
 
takumasay波形とか波動とかいう言葉が出てくると、ぐっと難しさが増すというイメージがあります。極めるのは一生の仕事かも知れません。
 


○ちゃんくま!さん
 時々刻々市場は変わりますので、近々の数年の成績が良ければ良しです。逆だと全く意味が無いですから。
 利益率の利確は使ってません、日数だけです。損切り条件もほぼなしです。
 タクマ支部長も頑張ってください。
 
takumasayがんばります。なるほど。直近の成績を重視するところは、オオウチのやり方に似ているかも知れませんね。あんまり昔までさかのぼっても意味ないかなー、とは、時々感じます。
 


○匿名希望さん
 世の中にはお金の教材が足りてないと感じています。タクマ支部長の漫画が日本の迷える子羊たちを導くことを願っております
 
takumasay学校では、プログラミングや統計は教えるようになってきているみたいですが、金融についてはまだまだのようですね。ご期待に添えるよう、研鑽努力いたします。
 


○zashzashさん
 FXの勝ち方教えて下さい。
 
takumasay当方、まったくやったことがないもので・・・
 
 


○koniiさん
 株は過去の記憶や記録で売買しているけれど、それが正しいかという未来の保障はない訳で、成功体験をもとにうっすらと、ビクビクしながら売買しています。ちなみに日別の勝率は95%位です。
 
takumasay95%!!すごいですね。慎重さが結果を生む好例ですね。
 
 


○すい爺さん
 「なぜ損するのか」という理由なら完璧にわかっている感じです。
 
takumasayこのコメントを見て、ハッとしました。もしかして、お負けになっている方が、「全然」とお答えになったのではないか、と。「なぜ儲かるのか」という理由の理解についてたずねているので、儲かっていなければ、わからないと答えざるを得ない・・・。戦略の理解度が成績に影響するのか、という方向にばかり気が行っていましたが、逆に、勝っている人ほど自分のやっていることを理解していると思い、負けている人ほどわかっていないと感じる、ということなのかも知れないと思えてきました。因果の方向が思ったのと逆だったのか、と。


○lisaさん
 私は株で生活しているので、これが分かっていないと生活できなくなります。
 
takumasayやはり。わかっているから勝てるのか、勝っているからわかると感じるのか。
 
  


○ようさん
 ある程度把握しますが、大きな意味ではリスクを背負ってます。
 
takumasayどれだけわかっていると思っても、リスクがゼロになるわけではありません。どれだけ金融工学が進んでも、リーマンショックは起きましたから。
  


○タヒイ本さん
 シストレやって、ボコボコに負けてます。
 なんで勝つところがあるのか、負けるところがあるのかすらわかっちゃいませんです。
 ブラックホールへ入ります。
  
takumasayお負け様がいらっしゃいましたか・・・。ここまでの流れからして、勝てば、「わかってきた」と思えるんじゃないでしょうか。いや、やはり理解を深めるほうが先でしょうか・・・。とにかく、自力でブラックホールから脱出できますように・・・
 


○Tさん
 パチンコトレーダーを初回から欠かさず読んでいた大ファンです、連載が終了して残念でなりません。
 全シ連と併せてパチンコトレーダーも再開して頂ける事を熱望してやみません。
 
takumasayどうもありがとうございます。あなたのような方に支えられて、坂本タクマは今日まで生きてこられました。やれと言われればすぐにはじめられるのですが、なかなか、ねえ。
 


○明太子さん
 シストレは頭が良い人しか勝てないことがわかりやめました
 しかしタクマ先生のシストレマンガは面白いので見てます
 
takumasay頭の良し悪しがどうというより、手間暇をかけてやったことが着実に前進につながるのがシストレだと考えています。まあ、裁量向きなのかシストレ向きなのか、人それぞれですから、このような方ももちろん大歓迎です。今回のアンケートは、裁量トレーダーの方もけっこうお答えくださったようで、ありがたい限りです。


○たけさん
 システムでコツコツ稼いで、裁量でギャンブル!
 超小型株の大株主になりすぎました。換金性まるでなし。
 
takumasay株では勝っているけれども、他でめちゃめちゃヤラレているとか、いろんな方がいらっしゃるようで・・・。たとえ負ける理由が明らかでも、やめられない人はやめられないみたいです。
 


 
 以上、大変興味深いコメントの数々、まことにありがとうございました。気付かされることの多い、有意義なアンケートとなりました。また面白そうなテーマが見つかりましたら、やってみたいと思います。そのときは、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。