支部長コラム其の5「AI(人工知能)は将来的に、個人投資家の敵ですか?味方ですか?」
国の全シ連ファンの皆様こんにちは。全シ連東北支部長の坂本タクマです。
今回の支部長コラムは、人工知能(AI)についてです。ブームに乗っかってみました。
AIがもたらす未来については、全シ連36話にて坂本なりの予想をお示ししました。大ざっぱに言えば、敵になるか味方になるかどちらでもないか、の3パターンが考えられるでしょう。正直、どれにも決定的な説得力はありません。本などをいろいろ調べもしましたが、人によって言ってることがまちまちで誰を信じていいのかまったく分かりません。
分からないときには、アンケートを採ろうというのが私の流儀です。というわけで皆様のご意見を伺いました結果が、以下の通りです。
◎アンケート結果
調査方法:全シ連のホームページでのネットアンケート。
調査期間:2017年1月30日~2月24日
質問:「AI(人工知能)は将来的に、個人投資家の敵ですか?味方ですか?」
選択肢:「敵」「味方」「どちらでもない」
結果
総回答数 24票
敵 | 9票 | 38% |
味方 | 1票 | 4% |
どちらでもない | 14票 | 58% |
ご協力いただいた皆様、まことにありがとうございました。
なかなか興味深い結果が出ています。味方と答えた方がほとんどいらっしゃいません。日々、相場を張っている方々の実感なのでしょうか。確かに、アルゴリズムトレードとやらが出てきてからやりにくくなったな、とは私もずっと感じています。
ただ、実際AIが相場で何をやっているのか、あるいはこれから何をしようとしているのか、ということになると、ほとんど謎と言っていいでしょう。そこで、ちょっとでも実体に近づくために、一般にAIというものがどういうものなのか、ということを調べてみましょう。
人工知能ブームの今
現在のAIブームを引っ張っているのは、ディープラーニングと呼ばれる手法です。生き物の脳内を模したプログラムであるニューラルネットワークというものが元にあって、その階層を深くして複雑にしたのがディープラーニングです。
くわしい実装等は他の情報源にゆずるとして、表面的にやっていることだけを言えば、大量のデータを与えて学習させ、データを分類したり、ある数値を予測したりするのに利用します。その成果として、写真に何が写っているのか見分けたり、車を自動運転したり、囲碁で人間を負かしたりしています。
学習に必要な大量のデータが得られる時代になったことが、このAIブームの一因です。インターネットのおかげです。機械学習や遺伝的アルゴリズム、そしてニューラルネットワークといった人工知能技術は昔からあったわけですが、データを得やすい環境になったことで、一挙に開花しました。
何しろ驚異的なペースで進歩しています。ついこの間まで不可能と思われていたようなことがどんどん可能になっています。
これが進んでいくと、いつかAIが人間の知能を越える、いわゆるシンギュラリティが起きるんじゃないか、とも言われています。それで世の中が良くなるのか悪くなるのか。人間はもはや働く必要のない、夢のような社会の到来を予想する人もいれば、人類の滅亡を予想する人もいます。そもそもシンギュラリティなんか起きっこない、という人もいます。
シンギュラリティが起きようが起きまいが、幸不幸はすでに起きつつあります。中でも大きな不幸に見舞われたのが将棋界です。トップ棋士の一人が対局中にコンピューターソフトを不正使用した、と疑われる事件が起きました。調査の結果、疑いは晴れましたが、棋界に大きな禍根を残すこととなりました。
全面的に人間の知能を越えなくても、たとえ部分的にでも越えることによって、大きなインパクトを与え得るのだということを思い知らされることになりました。
一方、囲碁界では、世界のトップ棋士がAlphaGoに負けた衝撃のあと、その棋譜が棋士たちに研究され、着手が盛んに実戦に取り入れられる、という前向きな活用が見られています。将棋界にも、コンピューターソフトを研究などにフル活用して実力を上げている棋士がいるとも聞きます。
今のところ、AIは人間の敵にも味方にもなり得る、というところでしょう。
相場とAIの関係は?
さて、それでは、我々が関わる相場の世界ではどうでしょう。
すでに、AIによって相場が研究され、実際に取引が行われていることは間違いなさそうです。あのときにAIがこれだけ儲けた、というような話もちらほら聞こえてきます。ただし、そのAIの中身については、よくわかりません。それを使っている人達にも分かっていないと思います。もちろんAI自身にもわかりません。今のところ、AIには、人間のように「意味」を理解することができないのです。つまり、誰にもわからないのです。それがディープラーニングの世界なのです。
それが恐ろしいことだとお思いの方もいらっしゃいましょうが、私は大したことはないと思っています。全シ連第28話とこのコラムの第2回では、なぜ儲かるのかという理由をわかっているべきかどうかという問題を取り上げました。その背景には、パラメーターの意味が誰にもわからないAIが、各方面でめざましい成果をあげていることがあります。もしかして、意味を知ろうとすることに、意味なんかないんじゃないか、と疑問がわいたのです。
お気づきのことと思いますが、AIがやっていることと、我々個人のシステムトレーダーがやっていることには、実はそんなに違いはありません。過去データから、勝てるモデルを構築するということです。
それでも、昔ながらのシストレと最新AIとでは、モデルの構築過程に大きな差があるのも事実です。我々がやっているシストレでは、通常、パラメーターは我々人間ががいちいち決めますが、AIでは機械が勝手に学習します。しかし、AIにうまく学習させるには、現在のところ人間がその方向性や深さなどを決めてやる必要があります。AI自身がそれを決めることはまだできないのです。それは、経験が物を言う、職人技の世界だと聞いています。
AIに学習させる際に、どのようなデータを与えるのか、というところもまた人間の判断です。ここら辺のところをおおっぴらにする人はあまりいないでしょうから、多分に想像が入りますが、おそらくこんなふうにやってるんじゃないでしょうか。
・株価(日中足含む)と、ありとあらゆるテクニカル指標のパラメータ値を少しずつ変えたものを用意する。なんなら、ファンダメンタルズ情報なども用意する。この時点でデータ量は膨大。
・上のデータを、ディープラーニングにより学習する。特定の期間の間になるべくたくさん利益を得る、というような評価基準を与える。
あるいは
・達人トレーダーに土下座して売買記録を提供してもらう。
・その達人との何気ない会話の中で、どのような情報を利用して売買しているのか、それとなく、さりげなく聞き出す。
・これらのデータからAIが学習し、達人の売買パターンを身につける。
というような感じでしょうか。
くれぐれも言っておきますが、これは、ゆるーくネットで調べたり人づてに聞いたりしたことに坂本の想像を盛って作ったお話しであって、少しも確証のあることではありません。自分がやるとすればこういうことかな、と思っただけです。
何しろ相当手間暇のかかることで、現時点では個人にどうこうできるもんじゃあない気がします。たくさんのコンピューターをつないで、よってたかってやるようなものなんじゃないでしょうか。AIを本格的に勉強したわけではないのではっきりとは言えませんが。
結局、AIが相場にもたらすものは?
それで、なんやかんややってAIトレーダーができたとして、どのくらいの威力があるものなのでしょうか。化け物のように稼ぐAIが出てくる一方で、さほどでないのもあるんじゃないかと思います。
色んな手法・スタンスの参加者がいて、それぞれに勝ち組と負け組がいる、というのが相場本来の姿だと私は考えています。裁量にもシストレにも勝ち組と負け組がそれぞれいるように、AIの中にも勝ち組と負け組が出てくるのではないかと。
それに、AIだって相場に人間がいたほうが楽に違いないので、人間を完全に駆逐するような戦略は採らないんじゃないかと思います。なんなら、ある程度人間にも勝たせるようなことさえするんじゃないでしょうか。がめつくお客から搾り取ろうとするパチンコ店には客が寄り付きません。出すところとシメるところのメリハリがあるのがいいお店です。それと同じような発想のAIがあったっていいと思います。
人間がAIを使って相場で儲けようとしているうちは、大したことにはならないんじゃないかというのが今のところの私の考えです。しかし、シンギュラリティが起きてAIが人間の能力を完全に超えたらどうなるでしょう。
AIが自分の目的を持ちだしたら、何をするでしょう。人間を支配しようとしてくるのでしょうか。そのために、金融市場でお金を稼ぎまくるかも知れません。どうやっても儲からなくして、お金というものを無意味にしてしまうかも知れません。何しろ人間より頭がよくなるのですから、人間にはその行動の予測はつきかねます。ということは、このシナリオに関しては深く考えても仕方がありません。
以上をまとめますと、AIは、当面は敵でも味方でもない、いちプレーヤーであるでしょう。技術が普及して、我々個人にも使いこなせるようになってくれば、味方にできる可能性も出てくるかも知れません。さらに進歩してあらゆる面で人間を越えてしまったら、そこから先は何もわかりません。
これが、現在のところの坂本の考えです。
AIは、敵に回すとかなりやっかいです。特に瞬間的に行う超短期売買は現状でもかなりの脅威だと感じています。高頻度取引を大幅に規制する、などの措置をとっていただかないと、個人で短期売買をするのは今後どんどん厳しくなるような気がします。業界やお上がどう考えるのか、注視していきたいと思います。
皆様のコメント
最後に、アンケートと共にお寄せいただいた皆様のコメントをご紹介いたします。漫画の感想等もお寄せいただきましたが、それは坂本が心で受け止め、AIに関するもののみを掲載させていただきます。
○隠れAIさん
どちらでもない
本物のAIは敵にも味方にもならないが、偽物のAIが投資初心者を食い物にするだろう。
弱いAIが人間の初心者から奪い取り、強いAIがその弱いAIから奪う、みたいなことでしょうか。
○リージンさん
敵
AIに食わせるビッグデータの量と質がAIによる投資の結果を左右する。
個人投資家が大手ヘッジファンド等と同じビッグデータにアクセスできるとは考えにくい。
このため、やはり、AI投資の時代でも個人投資家の大部分は大口投資家のエサになるだろう。今よりもっと酷いかもしれない。そのようなときには、AIが思いもしないカンを頼りにするのが良いかもしれない。
やはりデータ周りが、個人投資家にとっては一番のネックですね。そこをどうにかできれば、使えるような気もするのですが・・・
○タヒイ本さん
どちらでもない
あくまで人工知能は、過去のデータの蓄積から最善のものを選ぶものなので、未来の予測はできないと思っています。ですから、確かに速度は速いでしょう。しかし、儲かるかどうかはそのデータの扱い方次第です。結局人間がプログラムするのです。直近の素早い操作が必要なスキャルピングでは勝ちにくいかと思いますが、長期トレードでは生身の人間とあまり変わらないと思います。とくに大手証券会社のファンドで利用してもファンドが儲かるということはないでしょう。
コンピューター将棋では、持ち時間が短い場合はコンピューターが有利だが、長い持ち時間ではまだまだ人間のほうが強い、と言われていた時期がちょっとありました。相場ではどうなるのでしょう。
○山田さん
どちらでもない
稼働するAIの数が増えれば増えるほど、現在の人間と同じようなバラツキになっていくのでは?という気がします。
いくらAIの思考回路がたくさんあろうと、とれる行動自体は、結局「買う」「売る」「何もしない」の3パターンしかないわけですし、市場全体がそう極端に変わるわけでもなさそうな気がします。
AIの群衆化。そういうシナリオは、大いに考えられると思います。
○ヴンダーさん
どちらでもない
個人投資家が一対一でAIと競う場合は、性能や資金力において不利だと思います。
しかし、多数のAIが取引をしている場合は、
パワーバランスによって、何らかの値動きのパターンやトレンドが
発生していると考えるのが合理的なので、
個人投資家はその波に乗るのが良いと思います。
その点では、現在の状況と本質的に変わらないと思います。
囲碁で敗れた時点で、1対1のゲームではもはや人間はAIには勝てないことになったようですが、麻雀など、多人数が参加するゲームではまだ人間のほうが上回っているものもあるという話を聞きました。そうすると、究極の多人数参加ゲームである相場は、まだまだ安泰ということでしょうか?
○鶴見六百さん
どちらでもない
AIやディープラーニングって結局は、「アルゴリズム作成←→バックテスト」の(バリエーション生成も含めた)繰り返しを自動化するようなものだと理解してます。将棋AIの一手が「人間には理解できないけれども、妙手」であるように、上手く使えば「理由は分からないけれど勝てる」システムトレードが出来るんじゃないかと期待しています。
ただ、市場は人の「思惑」を原動力として動いている側面が大きいので、AIによる自動売買が市場で多数を占めるようになると、激しい値動きの総量は減るかも。AIで儲けるなら、多数の人間が使い始める前にやった方が良さそうですね。
AIによるトレードが個人に普及するか、というのが、大きな分かれ目、時代のキーポイントになるという気がしてきました。
○カズマックスさん
どちらでもない
それこそ人によって違うでしょうから断言は出来ません!
少なくとも僕は人工知能で相場を勝ち続けるのは不可能だと思う・・・。
相場を動かすのは、「人の思惑」だと思っているので、そんな事は絶対に人工知能じゃ読み切れないと思うので・・・。
もちろん、人工知能に人の思惑は読み切れないでしょう。読み切れないまでも、ある程度エッジがあれば、巨大な資本を持つ筋が研究する価値ありと判断するでしょう。優れた統計モデルさえ作れればいいわけですから。
○ほしさん
敵
個人もAIを持って戦うことになったとしても、結局は機関投資家が最も優秀なAIを用意すると思います。なので、個人から機関が巻き上げるということに。あれ!?ということは、今の現状と変わらないのかも!?
個人も含めみんながAIを使いはじめたら、ファンダメンタルズを元に相場予想をするような職業の方たちはどうなるのでしょう。
○ホッカさん
敵
現在相場に勝つ方法は市場の不効率に目を付けたものがほとんど。人工知能によって、不効率が埋まっていくと、相場に勝つ確率は限りなく50%に近づくだろう。
なるほど。AIにより、効率的な市場が実現するというシナリオですね。
○ごりさん
どちらでもない
敵にするか、味方にするかは使用者次第
AIを人のように見なすなら敵
道具のように見なすなら強力な味方になりえる。
AIの背後にいる人をどう見るか、という問題もありそうです。
○たまさん
どちらでもない
裁量トレーダであれば敵になるかも。
シストレ対AIの最終決戦という構図ですか?
○シコ太郎さん
どちらでもない
うーむ。おそらく人により敵にも味方にもなるというところか…。
しかし、大多数の個人投資家の敵になるのかな。
AIのいないとこさがし、みたいな手法が流行るかも。
○小林圭さん
敵
ボラが無くなりそう。
HFTのイメージが強いので、逆に高ボラになる可能性も。
○maさん
どちらでもない
難しいですね。
最終的には、全部のAIが同じ方向に動くような気がする
けどどうなんでしょうか
わかりません。
わからない、それ、正解でしょう。
○ドスンくんさん
敵
敵だと思います。
長期で機能している大衆心理を利用した単純なシステムもAIの手玉に取られていくような気がします。
個人は数年で駆逐されて、スマートマネー同士殴りあいの世界になります。
窓があきまくり、微細で高速な振動を繰り返したり、一回転したりワープしたり、過去のチャートが全く参考にならない変態チャートが形成されていくのではないでしょうか。
これはまた、激しいシナリオですね。今でもけっこう起きていることのような気もします。
○MNさん
敵
専業トレーダー12年目の者です。
将来的にはわかりませんが、現時点では自分のようなデイトレーダーにとっては敵以外何者でもありません。2010年以降、徐々に稼ぎにくくなっていると思います。
恐ろしいのは、相場の世界のAIの場合は、囲碁将棋や自動運転などのケースとは違い、
AIの開発状況やその成果が我々に知らされることなく、サイレントに猛威をふるうことだと思います。
あまり明るい未来は想像出来ません。
将棋界ではソフトを使った使わないで大騒ぎになりましたが、相場では、そんな議論が起きることもなく、最初から「アリ」としてコトが進んでいますね。考えてみれば恐ろしい世界です。
どうもありがとうございました。
大変参考になるご意見ばかりでしたが、すべて拝読した結果、やっぱり未来はどうなるかわからない、ということになりました。最初から、うすうすそうなるとは思っていましたが・・・
それでも、こういうことを一度は考えたことが何かの力になると信じて、明日を生きていくことにします。
それでは、また。